March 12, 2005

ワクチン接種の回数について議論する前に、日本で忘れられていること

犬猫のワクチンの追加接種は3年に一度で良いのではないか、というアメリカやヨーロッパでの議論を受けて、日本のペット医療においても、犬と猫のワクチン接種について、何年も議論が続けられてきています。
議論の内容は大きく分けて3つに分けられると思います。
(1)免疫の成立期間や持続期間に関する疑問に基づくもの
(2)ワクチン接種の副作用(副反応)に関するもの
(3)日本と海外の違いに基づくもの

但し、大事なことが忘れられていないでしょうか?議論は科学的な根拠(エビデンス)に基づいて行われなければなりません。日本での状況を踏まえた上での議論になっているのかということです。そして、海外で行われている議論を日本にそのまま持ち込むことは危険を伴うということです。 論点によっては、欧米においてもまだ根拠が不十分で結論が出ていないものも、数報の論文に基づいて、考え方のみが日本に持ち込まれている場合があります。

これらに対して、日本をはじめ海外でも活躍されている、日本有数のベテリナリー(獣医療)コンサルタントの秦敦朗先生が、アニマルメディア社の小動物臨床家向け月刊誌InfoVets インフォベッツ 2005年2月号54~57頁で非常に興味深い論説を書かれておられますので、著者の許可を得て転載いたします。

この論説は、「海外の小動物獣医師事情 from UK ~最近の英国における犬用ワクチン接種論争~」と題するもので、
「英国で市販されているワクチンの接種プログラム」
「ワクチン接種の効用」
「ワクチン接種による危険性」
「免疫の持続期間とブースター効果」
「Burr博士の勧告」
「日本における犬および猫のワクチン使用状況」
の6章節からなります。

その内の最後の「日本における犬および猫のワクチン使用状況」で、秦先生が論述されている通り、日本でのワクチン接種率は、海外に比べて非常に低いレベルに留まっています。狂犬病ワクチンでさえ45%程度であり、厚生労働省が感染蔓延防御に必要とする70%に及びません。
まず、ワクチンのブースター(追加接種)が3年で1回でよいとか、硬結(注射部位で、炎症が生じて結合組織が増殖し、硬化すること)などの副作用が心配で注射しない、と論議する前に、以下で述べられている通り、まず日本での状況について調査して、日本における科学的な根拠と実情に基づいた議論が必要とペットポータルでは考えます。

「日本における犬および猫のワクチン使用状況」

筆者は前述のように本誌に米国および英国のワクチン接種プログラムと問題点を紹介してきた。しかしBurrが指摘しているように、日本でも米英とは病気の発生率、病原体保有生物の分布、ワクチン接種率、その他飼育環境が異なるので、他国の接種指針をそのまま受け入れることには問題があると思われる。
 日本における最近5年間の犬と猫の飼育頭数と市販されているワクチンの数量を表2、3に示した。
table2.JPG
table3.JPG
この表で明らかなように、法律で強制されている狂犬病のワクチンですら接種率は45%前後であり、ジステンパーを含む多価ワクチンの接種率はさらに少なく、子犬を除くと成犬の70~80%はほとんど接種されていないと思われる。猫はさらに少なく、子猫に指示どおり2ドース接種するだけの量は市販されていないことから、成猫にはほとんど接種されていないようである。このように集団における免疫率が低いと高病原性ウイルスが輸入される犬、猫、エキゾチック・アニマル、その他の媒体によって国内に持ち込まれた場合には大発生することが懸念される。したがって、外国のようにブースターによるワクチンの過剰接種を論議する以前の問題として、どのようにしてできるだけ多くの動物に基礎免疫を獲得させるかがわが国における喫緊の課題であろう。また日本のコア・ワクチンの対象となる感染症の全国的な疫学的調査と動物の中和抗体価の測定が望まれる。


(以上の引用については、秦敦朗先生の著作権がありますので、個人的利用は除き、二次的利用は堅く禁じます。)

投稿者 Yuki : March 12, 2005 03:49 AM
コメント

はじめまして。

ビーグルを飼っている者です。
ワクチンについて、接種率を上げるために
自分のできることはなにか?
と、考えています。

わたしの知っている犬、飼い主たちは
予防接種を受けています。
でも、日本での接種率は、びっくりするほど
低いのですね。

獣医師の先生が、
いざ、狂犬病が発病したときになって
ワクチンを打とうとしても打てないという
状況が発生することは用意に予想できる。
というお話をしてくれたので
わたしは、ワクチンを打ち続けることを
決めました。

地震への備えにも似ています。

予防的なものって
認知されるのが、難しいです。
でも、がんばってください!!!

貴重な情報をありがとうございました。

Posted by: ガウママ : May 16, 2005 02:12 AM

ガウママ様:

コメント有難うございます。
「地震への備え」という表現に、ポンと膝を打ちました。
その通りだと思います。
とても的確な表現だと存じます。

でも、残念ながら狂犬病ワクチン接種によって副作用が生じる危険性があります。
別のコメントでも書きましたが、動物医薬品検査所(通称、動薬検)のウェブサイト http://www.nval.go.jp/ では、平成14年から3年間で35例の狂犬病ワクチンの副作用報告が残念ながらなされており、その中にはアナフィラキシーショックによる死亡なども含まれています。
朝まで健康だったワンちゃんを、1年間病気から守るために動物病院に連れて行ってワクチンをうってもらい、その日の内に亡くしてしまった場合、飼主さんはなぜワクチンをうったのかといくら後悔してもしきれるものではありません。また、なぜそのようなリスクがあることを最初から獣医師が教えてくれなかったのかと怒りをこみあげることは同じ一飼主として考えれば当然だと私も思います。

一般に、ワクチンは、自分の体内には存在しない異種タンパク質を注射して抗体を作らせるという予防方法ですから、既往症など問診を十分にすること、ワンちゃんの体調を十分に判断することなどが、接種前に必要だと思います。

万が一の危険性を少しでも回避するために、接種の前にきちんとワンちゃんの状態を診て、飼い主さんに問診をしてくれるところでワクチンを接種されることをお勧めしたいと存じます。
また、飼い主さんご自身も、ワクチン接種のために動物病院に連れて行く前に、ワンちゃんの体調をよく確認して、興奮させたり、炎天下などで大きなストレスをかけたりしないように、お気をつけていただきたいと存じます。

Posted by: yuki : May 17, 2005 02:02 AM

はじめまして、baba-nekoと申します。
いつも有益な情報をありがとうございます。
実は我が家のワン2頭のワクチン接種の時期が迫っており、いろいろな情報を収集した挙句、かなり迷っております。
この記事も、1つの考え方として、私のブログにリンクさせていただきました。
事後報告で申し訳ありません。
リンクが不適切でしたら、すぐに削除いたしますので、お知らせください。
どうぞよろしくお願い申し上げます。

Posted by: baba-neko : August 18, 2005 07:41 PM

baba-neko様:
コメント有難うございました。
返信が遅くなりましたが、リンクが不適切とは全然感じておりません。
ワクチンについては、もっともっと獣医師とワクチン製造メーカー、あるいは輸入会社との間で議論が必要だと思っています。
仰られる通り、3種混は少なくなりましたが、まだ生ワクチンのDA2Pワクチンが犬用に、CRPワクチンが猫用に販売されています(生ワクチンの方が、アジュバントなどの夾雑物が少ない分、不活化ワクチンに比べて副作用が少ないと小職自身は考えていますが、メーカーや獣医師により考え方に差があるところです)。
ワクチンは異種蛋白を体内に入れて抗体を作らせることですので、どれも100%安全とはいえませんが、もし製品に何か問題があれば、製造物責任(PL)のあるメーカーに責任があると小職自身は考えております。もし十分な説明責任を果たさず、接種前のワンちゃんの健康状態を把握していなければ、獣医師も責任を問われる場合も否定できないと思います。
米国では、USDA(農務省)が承認した3年間有効なワクチンが販売されています。これについては、またご報告したいと存じます。
Yuki

Posted by: Yuki : August 23, 2005 08:43 AM
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