October 09, 2003

4.狂犬病、日本再発のシナリオ

昭和32年(1957年)以降、45年間続いている狂犬病発生のない現状から、再発を想定することは心地よいものではありませんが、グローバル化・ボーダーレス化という世界情勢の中で、日本が今後も清浄国でいられる保障もありません。オーストラリア、イギリス、台湾、ハワイ等、島国だからこそ狂犬病が根絶された地域があります。しかし、イギリスでは1996年に狂犬病のコウモリが発見され、またフランス-イギリス間を結ぶユーロトンネルの開通でヨーロッパ本土からの狂犬病の危険性が指摘されています。そのため、日本でも、この現状を長く維持するために再発を想定して、その対応策を検討しておかなければなりません。

 日本で狂犬病の再発というシナリオを書くとすると、国内で突然発生が見られるというよりも、海外で狂犬病に罹患した動物が日本に持ち込まれるケースを想定することが普通かと考えます。

 世界保健機構(WHO)の調査では、日本の近隣諸国で、ロシア、中華人民共和国で発生がありますし、韓国でも1999年に男性が狂犬病で死亡しています。日露間で漁業交流が盛んな昨今、船員達がロシアから連れてきた犬を日本の港湾付近で散歩させていることがあるとのことですが、30日間以上の十分な検疫はなされているのでしょうか。 ロシア沿海州での狂犬病は、1999年に13件(ネズミ1例)、2000年には8件(犬 7件 猫 1件)の発生があるとのことです。 

 韓国では高麗リスで狂犬病感染の報告があるとのことで、長野県では高麗リスがすでに生息しているとの報告があります。また、過去にキツネやタヌキが海を越えて漂着した実例から、狂犬病に罹患した動物が漂着する危険性を唱える学者もおられます。

 都市部のタヌキや、昔ペットとして飼われながら野生化した野犬、野良猫やアライグマなどに、海外から侵入した感染動物から、狂犬病ウイルスが伝播されて、感染サイクルが形成され、ついには日本に定着するというパターンも考えられます。 そのような最悪の状況も視野に入れて対策を練ることは容易なことではありませんが、BSEや口蹄疫が日本に侵入したように、狂犬病の侵入は絶対ないとは言い切れないのですから、空港での検疫はもちろんのこと、海外からの船舶が入港する漁港での検疫体制の強化も検討すべきかもしれません。

 また、われわれ市民も、狂犬病が疑われるような野生動物(人間を恐がらない、舌を口外に出してよだれを流している、異物(石、土、木など)を食べる、下半身が麻痺している、音や光に過敏に反応するなど)をみかけたときは、直ちに最寄りの動物病院か、保健所に連絡することが望まれます。 決して、自分一人で捕獲しようとすべきではありません。 連絡を受けた獣医師も保健所に直ちに届出することになっており、保健所から獣医師に指示がなされる他、都道府県への連絡や確定診断の依頼がなされることとされています。

◆ 人での狂犬病の発生阻止

 狂犬病に感染した動物の入国を検疫で阻止できた、あるいは水際で捕獲できた場合は良いとして、動物に人間が咬まれた場合も想定して対策を考える必要があります。

具体的には、(1)動物での狂犬病の確定診断が実施可能な検査機関のリストアップ、(2)暴露前免疫あるいは暴露後ワクチン接種を行うためのワクチン備蓄と緊急輸入の手配、(3)人抗狂犬病免疫グロブリンの国内製造の検討、などが考えられます。

(1)として、単に健康な動物に咬まれたのか、狂犬病に罹患した動物に咬まれたのか、の間には大きな差があります。 現在、日本で動物の狂犬病の確定診断が可能な研究機関は、国立感染症研究所獣医科学部のみで、それ以外にも早期に確定診断が可能な検査機関をリストアップする必要があります。 例えば、BSE発生の際には、動物衛生試験場と帯広畜産大学獣医学科の存在がわれわれ国民には非常に頼もしく思えたものです。

国立感染症研究所http://www.nih.go.jp/niid/
〒162-8640 東京都新宿区戸山1-23-1
電話 03-5285-1111

(2)として、暴露前免疫あるいは暴露後ワクチン接種を行うためのワクチン備蓄ですが、日本では1社のみが製造しており、製造量も年間2万ドーズ(ドーズとは1回当たりの注射量をいう、つまり2万回の注射分しかないということ)です。 以前に述べた通り、狂犬病は発病した場合の死亡率はほぼ100%で、感染した後(暴露後)のワクチン接種により発病予防することが重要な対策となります。暴露後のワクチン接種は6回接種が基本ですから、これでは約3,500人分にしかなりません。 また、暴露前(感染前)の予防としては、0日、4週後、6~12ヶ月後の3回接種が基本であるため、2万ドーズを全て暴露前予防に使用したとしても6,700人分であり、全く足りません。 実際に狂犬病が日本で再発した際には、人から人への感染はないとされているとはいえ、医療機関の医師、獣医師、看護師などが動物に咬まれた人や動物に接する前に暴露前免疫を行うでしょうから、医療関係者のみで消費してしまって、肝腎の患者にはワクチンが行き渡らないという悲劇が生じるかもしれません。そのため、平時では必要はなくても、緊急輸入の方法も検討しておくべきと思われます。

人用ワクチンの消費の変動

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 1996年  20,953本
 1997年  16,437本
 1998年  16,253本
 1999年  24,721本
 2000年  27,286本
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(3)としてヒト抗狂犬病免疫グロブリンの国内製造の検討を挙げました。世界保険機関(WHO)では、狂犬病暴露後発病予防は、前述(2)の狂犬病ワクチン接種と、ヒト抗狂犬病免疫グロブリン(HRIG)またはウマ抗狂犬病免疫グロブリン(ERIG)の接種によって行うことを勧告しています。抗狂犬病免疫グロブリンとは、狂犬病ウイルスに対する抗体のことであり、ヒトとウマはそれぞれ人由来(つまり、人の体内にできた抗体を血液からつくった血液製剤)であるか、ウマ由来であるかの違いです。 薬害エイズで問題になったように、人由来では、未知のウイルスが混入している危険性が否定できません。また、ウマ由来のものは、人間とは異なる動物の異種タンパクですから、血清病が起こる危険性があります。 そのため、大腸菌にインシュリンを作らせたり、カイコの幼虫にインターフェロンを作らせたりするように、遺伝子操作を用いて微生物に純粋な抗狂犬病免疫グロブリンを作らせる技術を開発すべきであると考えます。 但し、平時には需要がほとんど少ないと考えられるため、狂犬病汚染国への輸出を視野に入れて生産するか、国が一定量を買い取り備蓄することを条件に製造することとして、開発に着手しなければならないでしょう。

◆お断り ~終わりにかえて~

 いずれにせよ、狂犬病の日本での再発の恐れはゼロではありません。 そのときにいたずらにパニックに陥ることなく、対応するためには平時からの準備が必要であるとペットポータルでは考えます。

既に対策として練られていることをこちらのみが知らず、関係者の皆様には不躾な表現があったかもしれませんことを予めお詫びいたします。

本特集についてご意見がありましたらペットポータルまでメールを下さい。不勉強な部分もあり、全てにお答えできないかもしれませんが、皆様と一緒に検討できれば、と願っております。

投稿者 Yuki : October 9, 2003 12:06 AM
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